アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」19 大久保ゆう訳
aozora blogの移行

2006年08月26日

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」20 大久保ゆう訳

20

 さて、王子くんが、さばくを、岩山を、雪の上をこえて、ながながとあゆんでいくと、ようやく一本の道に行きついた。そして道をゆけば、すんなりひとのいるところへたどりつく。

「こんにちは。」と、その子はいった。

 そこは、バラの花がさきそろう庭《にわ》だった。

「こんにちは。」と、バラがいっせいにこたえた。

 王子くんは、たくさんのバラをながめた。みんな、その子の花にそっくりだった。

「きみたち、なんて名まえ?」と、王子くんはぽかんとしながら、きいた。

「わたしたち、バラっていうの。」と、バラがいっせいにこたえた。

「えっ!」って、王子くんはいって……

 そのあと、じぶんがみじめにおもえてきた。その子の花は、うちゅうにじぶんとおなじ花なんてないって、その子にしゃべっていた。それがどうだろう、このひとつの庭だけでも、にたようなものがぜんぶで、五〇〇〇ある!

 その子はおもった。『あの子、こんなのを見たら、すねちゃうだろうな……きっと、とんでもないほど、えへんえへんってやって、かれたふりして、バカにされないようにするだろうし、そうしたら、ぼくは、手あてをするふりをしなくちゃいけなくなる。だって、しなけりゃあの子、ぼくへのあてつけで、ほんとにじぶんをからしちゃうよ……』

 それからこうもかんがえた。『ひとつしかない花があるから、じぶんはぜいたくなんだとおもってた。でも、ほんとにあったのは、ありきたりのバラ。それと、ひざたけの火山みっつで、そのうちひとつは、たぶん、ずっときえたまま。これじゃあ、りっぱでえらいあるじにはなれない……』そうして、草むらにつっぷして、なみだをながした。

★この文章を書いた人→大久保ゆう★こんな時間に→2006年08月26日 12:19 ★トラックバック
 コメント
 コメントする
※URLを入力するときは、そのままURLのみを入力してください。自動的にリンクされます。Aタグを使用することはできません。
※コメントスパム対応のため、POSTに時間がかかってしまいます。一度クリックしたら、気ままにお待ちください。










名前、アドレスを登録しますか?