翻訳の家庭教師はいかが?
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」18 大久保ゆう訳

2006年08月19日

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」17 大久保ゆう訳

17

 うまくいおうとして、ちょっとウソをついてしまうってことがある。あかりつけのことも、ぜんぶありのままってわけじゃないんだ。そのせいで、なにも知らないひとに、ぼくらの星のことをへんにおしえてしまったかもしれない。ちきゅうのほんのちょっとしか、にんげんのものじゃない。ちきゅうにすんでる二〇おくのひとに、まっすぐ立ってもらって、集会みたいによりあつまってもらったら、わけもなく、たて三〇キロよこ三〇キロのひろばにおさまってしまう。太平洋でいちばんちっちゃい島にだって、入ってしまう数だ。

 でも、おとなのひとにこんなことをいっても、やっぱりしんじない。いろんなところが、じぶんたちのものだっておもいたいんだ。じぶんたちはバオバブくらいでっかいものなんだって、かんがえてる。だから、そのひとたちに、「かぞえてみてよ」って、いってごらん。すうじが大すきだから、きっとうれしがる。でも、みんなはそんなつまらないことで、じかんをつぶさないように。くだらない。みんな、ぼくをしんじて。

 王子くんはちきゅうについたんだけど、そのとき、ひとのすがたがどこにもなくて、びっくりした。それでもう、星をまちがえたのかなって、あせってきた。すると、すなのなかで、月の色した輪っかが、もぞもぞうごいた。

「こんばんは。」と王子くんがあてずっぽうにいうと、

「こんばんは。」とヘビがいった。

「ぼく、どの星におっこちたの?」と王子くんがきくと、

「ちきゅうの、アフリカ。」とヘビがこたえた。

「えっ、まさか、ちきゅうにはひとがいないの?」

「ここは、さばく。さばくに、ひとはいない。ちきゅうは、ひろい。」とヘビはいった。

 王子くんは石ころにすわって、目を空のほうへやった。

「星がきらきらしてるのは、みんなが、ふとしたときに、じぶんの星を見つけられるようにするためなのかな。ほら、ぼくの星! まうえにあるやつ……でも、ほんとにとおいなあ!」

「きれいだ。」とヘビはいう。「ここへ、なにしに?」

「花とうまくいってなくて。」と王子くんはいった。

「ふうん。」とヘビはいった。

 それで、ふたりはだんまり。

「ひとはどこにいるの?」と、しばらくしてから王子くんがきいた。「さばくだと、ちょっとひとりぼっちだし。」

「ひとのなかでも、ひとりぼっちだ。」とヘビはいった。

 王子くんは、ヘビをじっと見つめた。

「きみって、へんないきものだね。」と、しばらくしてから王子くんがいった。「ゆびみたいに、ほっそりしてる……」

「でもおれは、王さまのゆびより、つよい。」とヘビはいった。

 王子くんはにっこりした。

「きみ、そんなにつよくないよ……手も足もなくて……たびだって、できないよ……」

「おれは船よりも、ずっととおくへ、きみをつれてゆける。」とヘビはいった。

 ヘビは王子くんのくるぶしに、ぐるりとまきついた。金のうでわみたいに。

「おれがついたものは、もといた土にかえる。」と、ことばをつづける。「でも、きみはけがれていない。それに、きみは星から来た……」

 王子くんは、なにもへんじをしなかった。

「きみを見てると、かわいそうになる。このかたい岩でできたちきゅうの上で、力もないきみ。おれなら、たすけになれる。じぶんの星がなつかしくなったら、いつでも。あと……」

「もう! わかったよ。」と王子くんはいった。「でも、なんでずっと、それとなくいうの?」

「おれそのものが、それのこたえだ。」とヘビはいった。

 それで、ふたりはだんまり。

★この文章を書いた人→大久保ゆう★こんな時間に→2006年08月19日 10:40 ★トラックバック
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