鏡花 at 歌舞伎座
「全書籍電子化計画と青空の本の夢」

2006年07月18日

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」9 大久保ゆう訳

 星から出るのに、その子はわたり鳥をつかったんだとおもう。出る日のあさ、じぶんの星のかたづけをした。火のついた火山のススを、ていねいにはらった。そこにはふたつ火のついた火山があって、あさごはんをあたためるのにちょうどよかった。それと火のきえた火山もひとつあったんだけど、その子がいうには「まんがいち!」のために、その火のきえた火山もおなじようにススをはらった。しっかりススをはらえば、火山の火も、どかんとならずに、ちろちろとながつづきする。どかんといっても、えんとつから火が出たくらいの火なんだけど。もちろん、ぼくらのせかいでは、ぼくらはあんまりちっぽけなので、火山のススはらいなんてできない。だから、ぼくらにとって火山ってのはずいぶんやっかいなことをする。

 それから、この王子くんはちょっとさみしそうに、バオバブのめをひっこぬいた。これがさいご、もうぜったいにかえってこないんだ、って。こういう、いつもやってたきまりごとが、このあさには、ずっとずっといとおしくおもえた。さいごにもういちどだけ、花に水をやって、ガラスのおおいをかぶせようとしたとき、その子はふいに泣きたくなってきた。

「さよなら。」って、その子は花にいった。

 でも花はなにもかえさなかった。

「さよなら。」って、もういちどいった。

 花はえへんとやったけど、びょうきのせいではなかった。

「あたし、バカね。」と、なんとか花がいった。「ゆるしてね。おしあわせに。」

 つっかかってこなかったので、その子はびっくりした。ガラスのおおいをもったまま、おろおろと、そのばに立ちつくした。どうしておだやかでやさしいのか、わからなかった。

「ううん、すきなの。」と花はいった。「きみがそのことわかんないのは、あたしのせい。どうでもいいか。でも、きみもあたしとおなじで、バカ。おしあわせに。……おおいはそのままにしといて。もう、それだけでいい。」

「でも風が……」

「そんなにひどいびょうきじゃないの……夜、ひんやりした空気にあたれば、よくなるとおもう。あたし、花だから。」

「でも虫は……」

「毛虫の一ぴきや二ひき、がまんしなくちゃ。チョウチョとなかよくなるんだもん。すごくきれいなんだってね。じゃないと、ここにはだれも来ないし。とおくだしね、きみは。大きな虫でもこわくない。あたしには、ツメがあるから。」

 花は、むじゃきによっつのトゲを見せた。それからこういった。

「そんなぐずぐずしないで、いらいらしちゃう。行くってきめたんなら、ほら!」

 なぜなら、花はじぶんの泣きがおを見られなくなかったんだ。花ってよわみを見せたくないものだから……。

★この文章を書いた人→大久保ゆう★こんな時間に→2006年07月18日 09:59 ★トラックバック
 コメント

Nice site. Thanks!!!


Posted by: print your own post card at 2006年08月23日 10:22

Cool site. Thanks!


Posted by: digital satellite tv dish system at 2006年09月11日 04:11

 コメントする
※URLを入力するときは、そのままURLのみを入力してください。自動的にリンクされます。Aタグを使用することはできません。
※コメントスパム対応のため、POSTに時間がかかってしまいます。一度クリックしたら、気ままにお待ちください。










名前、アドレスを登録しますか?