水牛だより6月1日
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」4 大久保ゆう訳

2006年06月01日

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」3 大久保ゆう訳

 その子がどこから来たのか、なかなかわからなかった。まさに気ままな王子くん、たくさんものをきいてくるわりには、こっちのことにはちっとも耳をかさない。たまたま口からでたことばから、ちょっとずつ見えてきたんだ。たとえば、ぼくのひこうきをはじめて目にしたとき(ちなみにぼくのひこうきの絵はかかない、ややこしすぎるから)、その子はこうきいてきた。

「このおきもの、なに?」

「これはおきものじゃない。とぶんだ。ひこうきだよ。ぼくのひこうき。」

 ぼくはとぶ、これがいえて、かなりとくいげだった。すると、その子は大きなこえでいった。

「へえ! きみ、空からおっこちたんだ!」

「うん。」と、ぼくはばつがわるそうにいった。

「ぷっ! へんなの……!」

 この気まま王子があまりにからからとわらうので、ぼくはほんとにむかついた。ひどい目にあったんだから、ちゃんとしたあつかいをされたかった。それから、その子はこうつづけた。

「なあんだ、きみも空から来たんだ! どの星にいるの?」

 ふと、その子のひみつにふれたような気がして、ぼくはとっさにききかえした。

「それって、きみはどこかべつの星から来たってこと?」

 でも、その子はこたえなかった。ぼくのひこうきを見ながら、そっとくびをふった。

「うーん、これだと、あんまりとおくからは来てないか……」

 その子はしばらくひとりで、あれこれとぼんやりかんがえていた。そのあとポケットからぼくのヒツジをとりだして、そのたからものをくいいるようにじっと見つめた。

 

 みんなわかってくれるとおもうけど、その子がちょっとにおわせた〈べつの星〉のことが、ぼくはすごく気になった。もっとくわしく知ろうとおもった。

「ぼうやはどこから来たの? 〈ぼくんち〉ってどこ? ヒツジをどこにもっていくの?」

 その子はこたえにつまって、ぼくにこういうことをいった。

「よかった、きみがハコをくれて。よる、おうちがわりになるよね。」

「そうだね。かわいがるんなら、ひるま、つないでおくためのロープをあげるよ。それと、ながいぼうも。」

 でもこのおせっかいは、王子くんのお気にめさなかったみたいだ。

「つなぐ? そんなへんなかんがえ!」

「でもつないでおかないと、どこかに行っちゃって、なくしちゃうよ。」

 このぼうやは、またからからとわらいだした。

「でも、どこへ行くっていうの!」

「どこへでも。まっすぐまえとか……」

 すると、こんどはこの王子くん、おもいつめたようすで、こうおっしゃる。

「だいじょうぶ、ものすごおくちいさいから、ぼくんち。」

 それから、どことなくかなしげに、こういいそえた。

「まっすぐまえにすすんでも、あんまりとおくへは行けない……」

★この文章を書いた人→大久保ゆう★こんな時間に→2006年06月01日 12:17 ★トラックバック
 コメント

http://storytellerbook.cocolog-nifty.com/... STORYTELLERBOOKで朗読させていただきました。
毎回楽しみです!

Posted by: ささきたけし at 2006年06月08日 13:08

日本語教育と日本語についての資料

Posted by: 陳友東 at 2006年09月02日 13:35

 コメントする
※URLを入力するときは、そのままURLのみを入力してください。自動的にリンクされます。Aタグを使用することはできません。
※コメントスパム対応のため、POSTに時間がかかってしまいます。一度クリックしたら、気ままにお待ちください。










名前、アドレスを登録しますか?